「日本のデジタル化は恥ずかしくて話にならない」孫正義さんが2021年に抱いた怒りと情熱

ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義さんは2021年、同社の決算説明会や自身のTwitterアカウントなどを通して、さまざまな“孫節”を披露した。

ある時は日本社会におけるデジタル化の遅れについて「恥ずかしくて話にならない」と怒り、ある時はAI(人工知能)などの最新テクノロジーについて「AIこそが人類が創造した最大の進化だ」と情熱的に語り、世間からの注目を集めた。

この記事では、そんな孫正義さんによる“孫節”とともに、2021年のソフトバンクグループでの取り組みを振り返りたい。

「日本のデジタル化は恥ずかしくて話にならない」

近年、新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の影響もあり、日本社会においては政府や行政のみならず、民間企業においてもデジタル化の遅れがあらわになった。孫正義さんは日本社会におけるデジタル化の現状について、こう怒る。

「今、世界には1000社ぐらいユニコーン企業がある中で、特にAI分野では(日本企業は)3社ぐらいしかない。決定的にAI革命から遅れを取ってしまったのは事実だ。DXの次にはAIトランスフォーメーションがある。デジタルにするのは当たり前の話だ。

デジタルになっていないことは、そもそものスタートラインにも並んでいないということだ。FAXでいまだにPCRの検査結果を伝えるなんて、何を考えているのか。恥ずかしくて話にならない」

孫正義さんは以前から「ほんの数年の間に、技術革命のあるAI分野で日本は完璧に『AI後進国』になってしまった」と発言していた。2021年にはデジタル庁が発足され、民間でもDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が注目を浴び、少しずつ変わりつつあるものの、孫正義さんが日本社会に抱く危機感は揺るがなかったと言える。

「われわれはAI情報革命の資本家になりたい」

そんな日本社会において、孫正義さんが代表取締役 会長兼社長執行役員を務めるソフトバンクグループ株式会社による「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」事業において、成功事例を生み出そうとしているのがAI企業への投資だ。

歴史を振り返ると、19世紀の産業革命においては「発明家」と「投資家」が重要な役割を果たした。代表的な人物は発明家のジェームズ・ワット、投資家のロスチャイルドだ。ジェームズ・ワットではなく、ロスチャイルドに注目する人は少ないかもしれないが、ロスチャイルドは鉄道(物流革新)や油田(エネルギー供給)などに投資した。

孫正義さんは現在のソフトバンクグループを「情報革命の資本家」と位置づけ、こう意気込みを述べる。

「産業革命は『人力』を『機械』に置き換えるという大きな流れだった。情報革命は『機械』を『AI』に置き換える革命であると認識している。産業革命の資本家としての中心人物がロスチャイルドだとするならば、われわれソフトバンクグループは情報革命の資本家としてのキープレイヤーになりたいと思っている」

孫正義さんは「『事業家としての孫正義は好きだけど、投資家としての孫正義は好きではない』と多くの方に言われた」と振り返りつつも、「金の卵で例えると、ソフトバンクグループは単なるお金の亡者だと思われるだろう。思いたい人は思ってもらって結構だ」と切り捨てる。

なぜ孫正義さんは「お金の亡者」と思われてでもAI革命を追い求めているのか。孫正義さんは人類の歴史を振り返り、こう熱弁する。

「人類はテクノロジーを進化させてきた。最初に生み出したのは火、そして農業が出た。代表的なもので言えば、産業革命で自動車、電気。そして、最近はインターネットとある。私は最も大きな革命はAIだと思っている。AIこそが人類が創造した最大の進化だ」

「『今から10年間、20年間、AIを活用する企業がどんどん企業価値を増やしていくのか? AI革命は広がっていくのか?』という問いをされれば、『間違いなく広がる』と心から確信を持って言える」

孫正義さんが抱くAIへの情熱は投資額に現れている。2021年7月〜2021年9月における世界の主要ベンチャーキャピタルによる投資額と比較しても、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」は2位の米タイガー・グローバル・マネジメントを大きく引き離し、166億ドル(約1兆9000億円)で世界トップに輝いた(※1)。

「あまりにも日本企業が少なすぎる」

一方で、孫正義さんは日本社会の現状に強い不満を抱えていることもあり、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」による日本企業への投資は前例がなかった。

そんな中、2021年10月、ソフトバンクグループが「ソフトバンク・ビジョン・ファンド2」において、日本のバイオベンチャー企業であるアキュリスファーマ株式会社への総額68億円の資金調達を主導したことが明らかになった。ソフトバンクグループが日本企業に投資するのは初である。

孫正義さんは以前から、「日本からAI関連のユニコーン企業が(生まれ)せめてインドだとか、シンガポールだとか、UKだとか、インドネシアだとかに負けないようにしてほしい。日本はもともとGDP世界3位の国だから、世界で3番目にAI関連のユニコーン企業が生まれるようにしなければならない」と述べていた。

孫正義さんが今後、日本企業に積極的に投資するのかどうか発言に注目が集まった。孫正義さんは、こう思いを明かした。

「ぜひ日本企業への投資を増やしていきたい。3000社ぐらいの会社をパイプラインとして常にディールフロー(投資機会の流れ)を見ているが、あまりにも日本企業が少なすぎる。かねてより私も残念だと思っていた。

すでに(日本企業への投資として)2号の会社とは具体的な投資の条件、手続きを進めている最中だ。2号は必ず近いうちに登場する。他にもいくつかまさに検討中の会社があるので、これから日本の銘柄も徐々に増えていくと信じている。ぜひわれわれも応援していきたい。心から願っている」

この言葉は実行に移された。2021年12月、ソフトバンクグループが「ソフトバンク・ビジョン・ファンド2」において、月間400万人以上が利用するスニーカー&ハイブランドC2Cマーケットプレイス「スニーカーダンク」を運営する株式会社SODAへの資金調達を主導したことが明らかになった。日本企業への投資はアキュリスファーマに続く2社目で、調達額は非公開である。

孫正義さんが述べていた2号がSODAを指していたかは定かではないが、今回の投資の背景には孫正義さんによる「あまりにも日本企業が少なすぎる」現状への不満と、「日本の銘柄も徐々に増えていくと信じている」という日本企業への期待が込められていると考えられる。

「69歳過ぎても社長をやっているかも」

孫正義さんは数年前、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」での取り組みについて語る際、「だいぶ頭は薄くなってきたが、情熱は燃えたぎっている。もう1回髪の毛がバーっと生えてきそうというくらい興奮している。ついに私の時代が来た。私は今、燃えている」と語っていた(※2)。このような情熱は64歳になった今でも、まだ燃え続けているように思える。

ソフトバンクグループは2021年3月期の連結決算が4兆9880億円と、日本企業の利益として過去最高額を記録した。有頂天になっても不思議ではないはずだが、孫正義さんはこう語った。

「どれほど株を持っているとか、どれほど利益を出しているとかは一時的な現象であり、まだまだこの物語は続く。まだまだ満足していない。5兆円や6兆円では満足する男ではない。10兆円でもまったく満足しない。まだまだ胸の高鳴りが続いている。これが僕の1番重要な思いだ」

その後、ソフトバンクグループは2021年度4月期~6月期の連結決算が7615億円で、前年度同期の1兆2557億円から約39%減少。2021年7~9月期の連結決算は最終損益が3979億円の赤字になった。

孫正義さんは赤字について「真冬の嵐のど真ん中だ」と自虐的に表現しつつも、「嵐の中でも着実に金の卵をどんどん産み続ける仕組みが、しかも自分たちの手持ちの資金で回っていくエコシステムができてきた。内に秘めた自信がある」と揺るがない意気込みを見せた。

情熱はいつまで続くのか。孫正義さんは後継者問題について聞かれ、「69歳ぐらいまでには次の後継者の目星をつけて、経営の舵取り(かじとり)を徐々に引き継いでいかなければいけない」としながらも、素直にこう語る。

「最近、予防線の意味も含めて、物理的年齢の69歳を過ぎるかもしれないと何度か言い始めた。もしかしたら、69歳を過ぎても社長をやっているかもしれない。あるいは、社長は誰かに任命して、私は会長として69歳を過ぎても経営に深く関わっているかもしれない」

後継者問題はソフトバンクグループにとって、いや日本社会や日本経済にとって重要なトピックの1つだ。しかし、孫正義さんが強い情熱を持ち続けている限り、まだまだ引退には早いのではないか。2021年にはデジタル化の遅れに怒り、AIなどの最新テクノロジーの可能性を熱弁した孫正義さん。2022年にはどのような“孫節”が披露されるのか注目したい。